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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
厳しいけどそれは俺を思ってのことで、反抗的な俺をときどき叱りながらもずっと見守ってくれた父親が。
突然いなくなる…なんて。
だから正直、杏奈とうまくやっていけるのか不安だった。
特殊な関係から、身体の関係から始まった俺らが、結婚しても死ぬまでずっと添い遂げられるのか。
俺の表情をじっと見てた母親が、柔らかく笑った。
「夫婦円満の秘訣?そんなのいっぱいあるわよ〜」
水を持ったまま突っ立ってる俺を見上げる。
「まず大事なのは、お互いを知りすぎないこと」
「…え」
知りすぎない?って…
「相手の子のね、秘密を尊重するの。
あんたにだって相手に知られたくないことや
言いたくないこと1つや2つあるでしょ?
それは相手の子にも必ずあるから。
それを無理に聞き出そうとしないこと」
「…、へぇ」
秘密…か。
そういや杏奈、秋人さんとのことってあまり話したがらないんだよな。
俺が仕事であいつが休みの時とか何してっか知らねぇし、大学一緒だったけど学年違ったし、誰と一緒にいたのかとかどんな大学生活送ってたとかも知らねぇしな。
「相手の全てを知ってしまったら
新鮮味がなくなって飽きてしまうからね」
…なるほど。
「…身体のことはいいの?」
「そんなことお母さんに聞かないで~」
ケラケラと笑う母親に苦笑い。
「あとこれも大事。恋愛と結婚は違うのよ」
「…え?」
お互い好きだから、結婚するんじゃ…
間抜けな顔してるだろう俺を母親が小さく笑ってる。
「付き合ってる時は、お互い好き好き言い合ってても
全然いいんだけど、結婚したらそうはいかないわよ。
いつまでも好き好き言ってたら疲れるからね」
「俺あいつ以外無理なんだけど」
「うん…さすがうちの子ね。
あんたもいずれ分かるよ、お母さんもお父さん大好きだけど
今は恋愛感情とは違った感情で一緒にいるから」
「どんな感情?」
「それはあんたが自分で体験しないと」
「…、えぇ…」
「分かる時がいつか絶対くるのよ、一緒にいたら」
自分で…か。
「まあいっぱい迷いなさい。あと身体の相性大事よ」
…サラッと妙なこと付け足したな。