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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
蒼汰SIDE
思わず杏奈を見つめると、杏奈は照れたように俺を見てはにかんだ後、母親を見つめた。
「蒼汰さんにはたくさん、助けて貰ったんです。
初めて出会った時からずっとそうなんですけど、
あたしにとって、蒼汰さんがいない人生なんて
生きてる意味がないんです。…蒼汰だから、
蒼汰だから大事で、大好きなんですっ…」
「念願叶って付き合えるようになった時、
あぁ、あたしはこの人と結ばれる為に
生まれてきたんだなって思ったくらい、
あたしに影響を与えてくれました」
…俺は。
杏奈を、救えてたのか?
「もちろん、楽しいことばかりじゃなかったです。
何度も何度も蒼汰さんを…自分を責めました。
離れたら楽になれる…そう言い聞かせて
離れようとしたことも何度もありました。
でも結局離れられなかった…
蒼汰さんは本当は優しい人だって、知ってたから」
「えぇ、蒼汰が?」
茶化すように聞く母親の言葉に、杏奈は柔らかく頷いた。
「蒼汰さん自身、自覚がないんだと思うんですけど…
とても気配り上手なんです。それもさり気なくて…
気付こうと思わなきゃ気付かないことを
すぐに気付いてしてくれて、…あたしのことだって。
優しいところ、あぁ好きだなって思った1つです。
自分の優しさに気付いてないところも大好きです」
「…俺、優しくねぇだろ。気遣いとか別に…」
「そういうところが好きなの」
「…、えぇー…」
「あたしの思いが、この人気になる、この人いいな、
この人がいい、この人じゃなきゃ嫌だ、
この人を選んでよかった、って変わっていって…
気付いたらどうしようもなく好きになってました。
この人と関わらなきゃいけない気がする、って…
運命を感じたのもあるんですけど」
「運命ね…。あたしもね、旦那と出会ってそう思って、
旦那もそう思ってくれてて結婚したの。
よかったわね、蒼汰。こんな子なかなかいないわよ」
「…、あぁ…」
それは分かってる。
痛いほど…分かってる。
「さっ、せっかくの料理冷めちゃうわ。
食べながら話しましょっ」
それから杏奈と母親は、俺そっちのけで和気あいあいと話しながらすき焼きを食べていて。
俺はおいしそうに食べる杏奈のことを、愛おしく思いながら見つめていた。