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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
***
「杏奈ちゃん。蒼汰にはもったいないくらいいい子ね」
「…うっせぇな。当たり前だろ」
杏奈がいい子だなんて、俺が一番よく知ってる。
今は、ご飯の片付けを終えて杏奈が風呂に入ってる途中。
まだ帰ってきていない父親の席にラップされたすき焼きの皿を置く母親は、俺を振り返って柔らかく笑った。
「あんたは、杏奈ちゃんのどこに惹かれたの?
身体とか言ったらぶっ飛ばすわよ」
…怖っ。
数年前に美咲のどこが好きなのか聞かれて、冗談で
「身体」
って言ったら飛び蹴りされたんだっけ。
なんて思いながら、杏奈の笑顔を思い浮かべる。
あぁ、やっぱり…
杏奈のことを思うと頬が緩む。
「確かに、最初は身体だけ見てた。
顔と身体…俺ら身体の相性もいいんだけど、
それ抜きにしても杏奈は凄ぇいい身体してたから」
無言で、母親の片足が上がる。
飛び蹴りの準備してやがる…
何と言われてもいい。
杏奈への溢れる思いを、俺は口にした。
「あいつは、びっくりするくらいまっすぐなんだよ。
いつもただ前だけを見てる。
従順そうに見せといて無意識に翻弄してくるところも
堪んねぇし、何より、俺を信じてくれてるところ。
俺を信じてくれてるから、俺も信じられる。
…器用そうに見えるだろ?あいつ。
いや実際凄い器用だし要領もいいんだけど、
結構抜けてんの。それが、堪らなく可愛い。
ここまで俺の心を惑わせたのはあいつだけなんだよ。
美咲にも、さんざん惑わせて貰ったけど…
ここまでぐしゃぐしゃに掻き乱されたのは杏奈だけ。
俺の傍にずっといて欲しいって思ったのも…杏奈だけ」
頬が緩んで、引き締められない。
どうしようもなく好きだって気持ちが溢れてくる。
好きで好きで、大好きで…
涙が溢れそうになって、母親に気付かれないようにそっと拭った。
いつの間にか片足を下ろしていた母親が、ニヤニヤしながら俺に近寄ってきた。
「…あんたのその杏奈ちゃんへの思い。
本人にもちゃんと伝えてあげなさいよ?」
「は?やだよ。恥ずかしいわ」
「あら。お父さん今でもお母さんに
愛してるよって言ってくれるわよ?」
「…は?あぁっ!?き、聞いてねー!んな事聞いてねー!
だっ、だから何だよ!?俺は別にっ…」