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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
俺が何しようとしてたのか気付いてたんだろう。
2人共、席に座って俺達を見ていた。
「あ、…っ、…と、こんばんは、初めまして…。
わたし、蒼汰さんとお付き合いさせて頂いている
香坂杏奈と申しますっ…
パジャマで、見苦しい姿ですみませ…」
「俺。こいつと結婚するから」
バッ、と俺を見る杏奈。
「ちょ、順序!!まず挨拶させっ…」
「まあまあ、2人共。まず座りなさい」
トントン、と机を叩いて俺らを座るように促す父親。
その目は酷く優しげだ。
「…す、すみませ…」
「…ん。座って」
杏奈の前の椅子を引き、肩を抱いて座らせる。
俺も、その隣の席の座った。
「まず、…えっと、杏奈さん…だったかな?
初めまして。蒼汰の父の、克宏です」
「蒼汰の母の恵です」
杏奈に向かってウインクする母親。
…何だこのクソババアは。
慌てて頭を下げる杏奈に、父親は柔らかく笑った。
「あなたのことは蒼汰からいつも聞いてます。
うちのバカ息子が迷惑をかけててすまんね」
「あ、いえ!そんなっ…」
クソジジイ…何を言いやがる。
「ある時から蒼汰は、わたし達に対する姿勢が
少し変わってね。今分かったよ…
君が傍にいてくれるから、蒼汰は変わったんだと」
「…え!?そ、そんな!あたしは何も…っ」
「…毎年蒼汰は、今くらいの時期に何日間か
帰ってきてくれるんだが…最近は話してくれる
内容がもっぱら、あなたの話ばかりだ」
「…クソジジイ」
本人の前で言うなよ…
「その時の蒼汰は、わたし達が見たことなかった
優しい表情を浮かべていてね。
いつか紹介されるだろうと思っていた…
わたしは歓迎するよ。
杏奈さん、蒼汰をよろしくお願いします」
「っ…」
また頭を下げる杏奈。
「…有り難いけど、随分あっさりだな。
今日初めて会わしたはずだけど」
「対人関係に慎重なお前があんな嬉しそうに
杏奈さんについて話してたんだ、あっさりも何もない」
舌打ちすると、隣で杏奈が俯いていく。
肩を震わせて泣く杏奈の髪を、そっと撫でた。
「…前にも、話したけど。
杏奈には、ご両親がもういないんだ。
出来ればこれから、杏奈の親代わりにもなってほしい」