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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
ずっと好きだった女が完全に他人のものになったことが、2人が結婚する前から分かってたはずなのに、なかなか受け入れられなかった。
なにかに当たらずにはいられず、一番当たってはいけない存在にぶつけてしまった。
また…杏奈を、傷付けた。
嫉妬なんて可愛いもんじゃない。
あの時の俺は、とてもじゃないけど口に出せない思いで、杏奈を抱いてしまった。
絶対に、口に出せない…今でも、誰にも言えていない。
距離を置かれ、杏奈の大切さを改めて思い知ったあの期間。
己のクズさにどうしようもなく失望して。
1人では何にも出来なくなっていたことに気付かされて。
自分の非を素直に受け入れられない、無駄に高いプライドのせいでしばらく苦しんだ。
それでも仕事はほぼ毎日あるから何とか出勤してたけど、丁度繁忙期に差しかかるところだったこともあり、身体も心もボロボロだった…と思う。
休日は、家で死んだように寝ていた。
そんな生活を続けている内に、冷静になっている自分に気付いて。
今まで自分が杏奈に対してしてきてしまったことが、どれだけ酷いことだったかをひしひしと実感し始めていた。
ああ俺、最低な男だったな。
女の子に、あんなこと。
セフレに対しては感情の線を切るって決めたろ。
身体にだけ向き合えばいいって決めたろ。
なのにこの子は、この子は…
誰ひとりとして俺の中身を見ようとしない女達と違い、この子は…
なのに、あんなこと、
変われてねーじゃん。
全然、変われてねーじゃねえか…
どうしたら、
どうしたらいいんだよ…
人に頼るのはプライドが許さなかった。
大樹にも美咲にも、翔平健麻友ちゃんにも、とにかく仲のいいやつらには決して頼ろうとしなかった。
だってこれは、自分自身の問題で。
頼ってはいけない気がして。
しかも内容が内容だから、誰に話せるんだよと。
どう考えても引かれるだろうと。
下手したら縁切られるぞと。
そこまで考えて、また絶望した。
ああこういうところだ。
何が邪魔かってこのプライドだ。
この変に見栄っ張りなプライドなくせば、俺は少しでも変われるだろうか。
誰かに話せば、人の考えを取り入れれば、俺は変われるだろうか…