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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
「あんたの親なんだから、言えることなんだからね。
蒼汰のこと、誰よりも一番知ってるから言えるんだからね。
蒼汰のこと大好きで大事だから言えることなのよ」
「そんなふてくされた顔して、絶対分かってないだろうけど
いつか分かる日が来るから。今はうざくてしつこくて
何言ってんだこのババアって思ってるだろうけど
あんたねちっこいから数年経っても忘れないと思う。
それを分かってお母さんは言ってるんだから」
「お母さん達はあんたのいいところも、悪いところも
みんな知ってる。知ってる上で大好きなの。
あんたはちゃんとお母さんもお父さんもいる家庭で
育ってるんだから、ちゃんとあたし達から
学んだことを社会で生かせる人間になって」
「そのままでいちゃだめよ。
ほんとは何かきっかけでもあればいいんだけど、
自分を変えられるのは自分しかいないんだからね。
蒼汰自身が気付かないと意味ないんだからね」
「それでいつか、あんたのいいところも悪いところも
受け入れて一緒にいてくれる女の子が見つかったら、
お母さん達に教えてね。ほんとに蒼汰でいいのか
問い詰めた上で大歓迎するわ」
「東京行ってもときどき顔見せに帰って来てね
美味しいものたくさん作って待ってるから」
「何があっても、世界中があんたを敵に回しても
お父さんとお母さんはあんたの味方だからね」…
泣きながら言われた言葉達。
あの時はほんとに、長々と何言ってんだこのババア、と思っていた。
俺の勝手だろ、と。
それが数年経った今、母親の言葉が呪いのように俺を苦しませていた。
数年経ってやっと、母親の言葉の意味を知り、受け入れ、後悔した。
なんでもっとちゃんと聞かなかったんだと。
杏奈に会う前に、気付けなかったんだと。
まだまだ俺は子供だった。
自分だけが可愛い、自分のことしか考えない子供だった…
杏奈が俺の元を離れた時、ちゃんと覚えていた母親からの言葉が思い出されて俺を苦しめた。
ああこのことかと。
そして深く感謝した。
あの言葉があったおかげで、改めて気付くことが出来た。
杏奈は何より、美咲よりも手放せない女だと。
そして。
俺は恵まれていたんだ、愛されていたんだと実感した。