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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
前の俺ならキレてたかもしれない。
だけど今なら全然違って捉えられる。
嬉しそうに俺のことを結構なキレのある言葉で話して(ディスって)くれる杏奈や、杏奈の話を聞いてめちゃくちゃ笑って俺を馬鹿にしてくる母親は。
俺を大事に思ってくれてるからこそ、俺を知ってくれているからこそ、ああいう風にイジれるんだよな。
それに気付けたのは、俺自身が周りを見れるようになったりいろんな人と関わっていろいろ失敗したりしたのもあるけど、
…一番は杏奈に出会ったからかなー。
なんて本人には絶対に言わないが心の中で思う。
「…はいはい、もうその辺にしとけ。
母さんそろそろ離してやって」
「え〜〜〜」
相変わらず止みそうにもない会話に割って入り、杏奈を何気なく車から降ろさせる。
去る車にいつまでも手を振ってる杏奈を置いて先に歩き出していると、小走りで来て隣に並んだ杏奈がとびっきりの笑顔を見せる。
「蒼汰のご両親、ほんとに素敵な方たちだった〜!」
「ああそう、うん、気が合ったようで何より」
俺から自分の荷物を受け取り、跳ねるような足取りで歩く杏奈。
「すごい気にかけてくれるんだね!
あんなに親身になっていろいろ話してくれる方達
初めて会ったよー!いっぱい話せて嬉しかったっ」
「おう、すげー喋ってたな」
「うん!最初すごく緊張したの嘘みたいだった!
まだ喋ってたかったよ〜」
「いやそれは勘弁して。もー早く東京帰りてぇ」
「えー!なんでなんで?」
「あっちの方が落ち着く」
「えっ嘘でしょ…あんなごちゃごちゃしたところに帰るのに」
「ごちゃごちゃしてる方が落ち着くの」
ふうん、と相槌をうち、駅構内を歩く間も嬉しそうに母親達のことを話していて。
なんだかんだ疲れたから聞き流してたけど、ふと気付くと黙り込んでる杏奈。
やべ、聞き流してんのバレたかな。
相槌のタイミング間違えたか。
なんて本人に聞こえようものなら口喧嘩に発展するだろうことを思いながら顔を覗き込むと。
さっきとはうって変わり暗い顔をしてて驚く。