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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
「…杏奈。杏奈?大丈夫か?」
「…っあ、ううん、ちょっと…」
それからしばらく俯いてて、やがてゆっくり顔を上げて俺を見る。
その表情は暗い。
「ねえ蒼汰…あたし、大丈夫だった?
馴れ馴れしかったとか、受け答え不自然だったとか…
ご両親に対して変なところなかった?
あまりに楽しかったからつい素で話しちゃったけど…
迷惑かけてないかな」
「ん?全然大丈夫だったと思うけど」
「あたし、親いないから…嫌がられたらどうしようって
思ってたけど、嫌がられては、…ない、のかな?」
とっさに杏奈の頭を撫でる。
「馬鹿。お前が嫌がられるなんてことある訳ないだろうが」
ご両親がもういない杏奈にとって、婚約相手の親に会うのはどんな人間性であれ相当緊張しただろう。
「心配すんな、めちゃくちゃいい仲になれると思うぞ。
俺ん家わりとドライな方だから干渉されないけど、
俺の兄の嫁と姉の旦那ともそこまで悪くないし」
「悪くない…?ってことはよくはないの…?」
…あっ言葉間違えたか?
杏奈は情緒不安定になると言葉をいちいち砕いて話さないと更に機嫌を損ねるしあとが長引く。
…正直慣れるまでかなりめんどくさかった。
だけど今はしっかり向き合うべきだろう。
「悪くないってのはほら、それぞれ人間性違うから
歩み寄り方もそれぞれだろ。
お互い面倒じゃない程度に気使ってんだよ。
初めて会ったんだからお互いのこともまだ全然
知れてないわけだし。それはこれから何度も会って
分かってきゃいいことだからあんま気にすんな」
俺なりの言葉を聞いて何やらぶつぶつ言ってるから耳を傾けると、どうやら珍しく時間をかけて自分なりに噛み砕いてるらしい。
そして納得したらしい杏奈が顔を上げた。
明るくなった表情にほっとする。
「分かった。ありがとう」
こういった真面目な話をするとき、地頭と要領がいい杏奈と理屈っぽいくせに考えが浅い俺とで意見が割れることもあれば一致するときもあって、最終的に俺でも分かりやすい言葉で杏奈が締めてくれる。
お互いの身内のことを話し合ったときもだいぶ時間がかかってしまった。