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want to be ...【短編集】
第5章 温泉旅行 1日目






…何!?嘘ついてるとか思われてる?


「…あの。離してください」


「うん…俺そういう強気な子大好き」


…は?


「そういう子を自分の思い通りにすんのもっと好き」


…ヤバいこの人変態だ。


変態っていうか変な人だ。


「彼氏いたとしてもさ、俺よりブサイクだろ?
俺といた方が楽しいって」


…ひぃい!怖い!


変態だし変な人だし更にはナルシスト!?


厄介だこの人!


ていうか周りの人!助けて!


肩掴まれてる力が強くて振りほどけない!


だけど、周りにはビール飲んでるおじいちゃんとか、話に華を咲かせてるおばちゃんしかいなくて…


怖い…叫べば、いい…?


そう思ってもがいて、ふと顔を上げた。


…あ。


その人を捉えた、瞬間。


「杏奈」


そう呼ばれて、ざあっと身体に寒気が走り、やがてじわじわと熱くなった。


…う、そ。


今、


「おいで」


杏奈、って…


もう隣にいた男の人なんて見えない。


導かれるように立ち上がり、あたしを呼んだ…大樹さんの元へ向かった。


「…ごめん。待ってた?」


「…い、え…あっ、うん…待ってた」


「ありがと。部屋戻ろうな」


「…っ、はい…」


軽くあたしの背中に手を触れて休憩室を離れる大樹さん。


目の奥が熱い。


歩く内に、ついに流れた涙。


声を出さずに泣くあたしを、休憩室や男湯と女湯から少し離れたところまで連れて行ってくれた大樹さん。


「…びっくりしました」


「…ん」


「肩、掴まれて。びっくりして…」


「…うん」


「肩…っ、ふり、ほどけなっ…痛いし…」


「…」


…ダメだ。


迷惑かけちゃいけない…


堪えようとするのに、ますます溢れる涙。


すると。


「…ごめんな。俺さ、マジで女の扱い分かんねぇの。
今の杏奈さんが美咲ならさ、思いっきり抱き締めて、
あんな男欠片も忘れるくらい、頭ん中俺だけになるくらい
抱いて忘れさすんだけどそういう訳にいかないだろ。
…これでも歩み寄ろうとしてんだよ?君に。
蒼汰の大事な子だし。でも俺、どうしても女に偏見あって
美咲にしかまともに接せなくて…ごめん。
…こういう時、女ってどうしてほしいんかな」


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