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逢瀬は月見橋で
第2章 あたしとユタカ

働き始めて1年くらい、だったと思う。
ユタカが客として店に来たのは。
商店街の若旦那達が会合の後の2次会でよくこの店に来るのだが、
ユタカははじめてみる顔だった。
「咲穂ちゃん、こいつ新入り。
荒木金物店の2代目なんだ。よろしくね」
八百屋の2代目に紹介されたその男は、
どこかおどおどしていて、
店主なんて務まるの?って印象だった。
聞くと、ついこの間まで東京でサラリーマンをしていたが、
リストラ候補にされて自分から辞表を叩きつけてきたんだ、と
エラそうな内容なのに恥ずかしげな口調がおかしかった。
「いざとなったら家を継げばいいんだって、ずっと思ってサラリーマンしてきたから。
甘えてるって言えばそれまでだけど・・」
それを聞いて、案外自分の事が解ってるんだな、って、
なんだか良い印象に変わってきた。
「正直なのね、荒木さんて」
あたしの褒め言葉に頬をたるませて、ユタカは照れ笑いを見せ、
美味しそうにビールを飲んだ。

