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逢瀬は月見橋で
第1章 月見橋で・・
「へぇ、月見橋っていうんだ、この橋」
男は欄干を撫でながら橋から川を眺め下ろす。
「知らない・・あたしが勝手につけたの、月がきれいに見えるから。
あんた・・このへんの人じゃないみたいね」
言われたままに信じるという事は、知らないからだろう。
男は最近住み始めたばかりだ、と言った。
「四日になるか、ここへ来て。
それまでは都会のど真ん中に住んでたからね、こんなに
虫の鳴き声が聞こえる真っ暗な場所がめずらしくってね、
毎晩散歩してるんだ」
地図でいうとこの県の右半分は都会だけど、左半分は立派な田舎、と
言いたくなるようなのどかな風景がほとんどを占めている。
その中でも県境に近いこの町は、駅前だけがにぎわっていて、
後は自然が豊かに広がっている。
都会のど真ん中から移り住んできたこの男にとっては
物珍しさに突き動かされるのも当然かもしれない、と思った。