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公衆便所から始まる
第9章 stand by me!
仕事終わって電話した俺を、有紀人さんは店に呼んでくれた。
━━桐島整体院。
有紀人さんて桐島有紀人さんだったんだ……。白衣の胸のバッジにも名前があった。
みんなゆっきーって呼んでたし、そんなことも知らなかったし、知らなかったことにも気づいてなかったんだな、俺。

整体院なんて入るの初めてで、キョロキョロする俺を
待合いスペースの椅子に座らせて有紀人さんは紙コップに入れた水を勧めてくれた。
水かよ……久しぶりに飲むわ。
でもそれはここでは普通のことみたいだった。

「循環よくすると、老廃物の排出もうまくいって体がよくなりやすいからね」
「へぇ」

なるほど、そんなもんなのか。
また知らなかったことを一つ知った。
コップに口を付ける俺を、有紀人さんは受付カウンターから柔らかい表情で見ている。

「……なんすか」
「いやぁ……。3年たったねぇ」
「……そっすね」

ふふっと笑う有紀人さんは、変わった。と思う。
3年前より魅力的になった。
どこがって言われても説明できないけど。

飲み終わったカップを有紀人さんに手渡す。もうゴミ捨ても終わってるだろうから。

「さんきゅ」

それを裏へ持って行こうとしながら、足を止めて有紀人さんは天井から下がったカーテンの中を指差した。

「そこで寝ててよ」
「あ、うん……」

そうして振り向きもせず扉を入っていってしまう。
俺はぎくしゃく立ち上がって、靴下で店に上がりカーテンをよける。
そこにあるのは顔を伏せるところのあるベッドで、つまりこれが施術台なんだろう。
うつ伏せ、でいいのかな。

ベッドに膝をついて体を持ち上げたとき、音もなくやってきた有紀人さんが俺の腰に手を当てた。

「ん、そのまま」

俺の驚きなんかないみたいに、ゆっくりとうつ伏せを促される。
顔を挟まれるようにして伏せると、有紀人さんが俺の体にタオルをかけてくれ、その安心感に俺は肩の力を少し抜いた。
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