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お慕い申し上げて居ります
第3章 交差
リビングは書斎も同然で、流石に一流高校の理科教師だけあって、物理や化学、生物、地学といった高校理科の参考書が本棚にずらりと並んでいた。そしてもちろん、大学や大学院、研究室時代に専攻した生態関係の専門書や調査用器具なども揃っている。

「すごい」

思わず朱里は呟く。

朱里は文系選択で右京大学に合格したが、元々生物という科目が大好きだったし、動物自体に小さな時から興味を持っていた。本棚に並んだ生物図鑑のようなものを手に取りたくなったが、幾ら何でも勝手に触るのはまずいのでやめておいた。



ふと気付くとやけに浮いたーというより、色彩的には沈んだアンティーク調の本が見える。

本の上側から覗くと、本の側面がやたらとツルツルしていて、そして背表紙も不自然に厚い。

(ブックボックス?)

と、朱里は思った。

知っての通りブックボックスとは本の形をしたただの箱である。

しかしーー
たかが箱、されど箱?

わざわざカモフラージュして仕舞っているとは、怪しい以外の何ものでもない。

思わずそれをよく見ようとして背表紙に手を触れると、後ろから声がした。

「何してるの」

「あ、先生...」

先生は、頬が上気している以外には特に変わった様子もなく微笑んでいる。

(気付かれていないみたい。よかった)

「おいで」

「うん...」



僅かに湿ったままの髪を無造作に額に垂らしている先生は、いつも以上にかっこいい、と朱里は思った。

中田が朱里に向かって腕を差し出し、

「抱き締めていい?」

と聞く。大事そうに。

「どうして今更そんなこと」

「ふふっ」



朱里は近づき、ぎゅう、と中田の腕に包まれる。

「先生...好き」

「俺も、朱里。ベッド行こう?」

朱里は恥ずかしそうに、声を出さずに頷いた。




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