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講義の終わりにロマンスを
第3章 変装と女心
Jazz Bar『Dance』は、その日、いつも通りの閉店を迎えた。
突然訪れた真菜は、詩織の演奏を聞き終えると、そのまま帰宅する彼女と共に、大人の社交場を後にした。
真菜の飲んだドリンク代は、詩織が「友達の記念に」と既に支払っている。
クローズを済ませた小鳥遊が、着替えを終えてフロアに戻ると、既に着替え終えた佐々木が丸テーブルの一つに座って待っていた。
「行くか?」
「はい」
月曜と金曜、小鳥遊は店の閉店時間まで働いている。
2浪した彼は、現在大学3年生だが、1,2年で必要な単位は粗方修得したため、今年と来年は時間に自由が利く身だった。
火曜の1限に授業を入れずに、その分、前日の夜は最後まで働くことで、バイト代を増やしている。
ただ、その勤務スタイルでは、小鳥遊は終電を逃してしまうため、その日の仕込み担当のバーテンダーが、彼を家の近くまで車で送るのが通例になっていた。
佐々木が掌の中で、愛車――カローラアクシオのキーを弄ぶ。
エレベータのボタンを押したところで、背後から声がかかった。
「小鳥遊」
着替え終えた国崎の姿だ。
フロア奥の灯りを消しながら、帰ろうとするウェイターを呼び止め、国崎は人差し指を立てて、スッと彼を指さした。
「後で報告な」
「・・・はい」
微笑んでいるが、視線は真剣だ。
彼の、あぁいう表情は、「きちんとケジメをつけろ」という意味だと、小鳥遊は理解していた。