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講義の終わりにロマンスを
第3章 変装と女心
難しい顔で助手席に乗り込む青年に、佐々木が微笑む。
「大変だな、若いっていうのも」
「なんすか、佐々木さん」
「あいつ、それなりに心配してたぞ。痴情のもつれじゃないかって」
「はいぃ?」
驚いてエンジンをかける運転手を見てから、その顔に浮かぶ笑みに冗談だと気付き、小鳥遊は苦笑した。
「ったく、佐々木さんの冗談、まじ洒落にならないっすよ」
「そうか?」
しれっと微笑む佐々木を軽く睨んでから、流れだした窓の外の景色に目を向ける。
カーステレオから流れる女性シンガーの曲が、耳に心地よい。
「なんて、曲ですか?」
店内でも時折流れる曲だが、この曲はインストルメンタルでしか聞いたことがなかった。
心が軽くなるような、ミディアムテンポの不思議なメロディーラインだ。
「"My Romance"」
「マイ、ロマンス?」
「そう。たしか、そんな名前の曲だ」
佐々木が指さしたカーステレオのパネルに、"My Romance"という英語の文字が浮かんでいた。
「ロマンス、か・・・」
呟いた小鳥遊のデニムで、スマホが震えた。