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講義の終わりにロマンスを
第4章 決戦の金曜日
真菜の答えに、小鳥遊が小さく息を吐きながら片手で目元を覆った。

「金曜日は…、先生がBARに一番に来ることがあるって」

小鳥遊の態度が沈んで見えて、真菜の言葉がますます小さくなった。

「あの、・・・お邪魔、でしたか?」

「いや、平気だよ」

努めて明るい声で告げるも、小鳥遊は何処か苦しげな顔で、真菜を振り仰いだ。

「俺に、会いに来たんだね」

確認する彼の脳裏に、あの時、抱き寄せた真菜の華奢な感覚が蘇る。

彼女を帰さなくちゃならないと思いながらも、不意に泣きだした彼女を詩織に任せてしまった負い目も感じる。

その夜、自分の行った浅ましい行為に対する悔恨の情も。

思いに沈む小鳥遊は、頷いた彼女が尋ねた言葉も、一瞬聞き逃した。

「・・・、あ、ごめん、・・・何?」

「BARで、何をしてるんですか?」

「あぁ、来週の授業の予習―――」

「え」

「あ」

うっかり素直に答えた小鳥遊に、真菜が目を見張っている。

はっとして取り繕おうとした時には、真菜の視線はテーブルの上のノートに向かっていた。

その表紙に"真菜ちゃん授業ノート"と黒いマジックで大きくはっきり書かれている。

文字を読む、真菜の瞳が潤んだ。

「あ、いや。これはね」

慌てる小鳥遊をよそに、真菜は無言のままノートを見つめる。

"No.3"と書かれた、そのノートは、使い込まれているのか端が折れて、少し汚れていた。

恐らく、真菜の苦手な単元が細かく丁寧に書かれているのだろう。

少し右上がりの小鳥遊の字が、真菜は好きだった。

前に伝えた時に「人生右上がり、みたいだろ?」と教師が笑っていたのを思い出す。

(先生は、私のこと、まだ見捨ててないんだ・・・)

緩んでいた涙腺が、プツリと切れた。


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