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講義の終わりにロマンスを
第4章 決戦の金曜日
「嘘?」
意外な言葉に面食らったのは小鳥遊だ。
出会ってから今日までの授業の記憶が走馬灯のように駆け巡る。
(俺、何か嘘をついたか!?)
なにか誤った公式でも教えてしまったのだろうか。
それとも、もっと些細な、例えば年齢を間違って教えて、BARで働けない年齢だと思われていたとかか?
いや、そんなはずは無い。
最初に出会った時に、自己紹介をして、サバも読まずに年齢も伝えたし、2浪したことも伝えていたはずだ。
ともすれば授業の時よりも真剣な顔で記憶を探る彼の耳に、真菜の意外な言葉が飛び込んだ。
「名前・・・」
「へ?」
「名前、・・・・たかなしって・・・」
「うん」
これでもかと目を見開いて真菜を見つめていた小鳥遊が、はっとして息を飲んだ。
直後、脱兎の勢いでフロアのテーブルをすり抜けて黒い扉の向こうに走りこむ。
余りの勢いで廊下にぶつかったらしく、閉まりかけた扉の奥からドンと鈍い音が響いた。
真菜が唐突な教師の動きに驚きながらも、おろおろと自分の教師が消えたフロア奥と、さっきまで彼が座っていた座席を視線で交互に見やる。
やがて、小鳥遊は焦った様子で戻ってきた。
手に、何か握っている。
その表情には確信に満ちた何かがあった。
「真菜ちゃん!」
「はいッ」
声を張り上げた小鳥遊に、真菜の声も反射的に裏返る。
そんな彼女に、小鳥遊が握っていたものを差し出した。
それは、黒光りする彼のネームプレートだった。
「これ、読める?」
「・・・・・」
一拍間を置いて、恐々と首を振った真菜に、小鳥遊は、漸く合点が行ったとばかりに、深く息を吐いた。
「これ、"たかなし"って読むんだよ」