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講義の終わりにロマンスを
第5章 My Romance


授業の終わりに、小鳥遊は真菜に1枚のCDを渡した。
『Standard Jazz』と描かれたケースを開けると、CDにはピンク色の付箋が付いていた。
"My Romanceがオススメ"と書かれたそれに、真菜は小さく笑いながら、一人の部屋で、そのCDをかける。



彼の香りの残る部屋で、彼からもらったCDを聞く。
その一時が、真菜に穏やかな時間を与えた。
優しく寄り添うように流れるメロディと、まだ彼が傍にいるような心地良いラストノート。


(・・・)



ベッドに腰掛けて、ゴムを外し、髪に手櫛を通してから、CDケースの中の歌詞カードに指を伸ばす。
書かれた歌詞を眺めながら、真菜は大きな羽で柔らかく包まれているような安心感を味わっていた。
女性の歌声の伸びやかさが、どこか詩織の優しさを思い起こさせる。
数学は苦手でも、英語は得意な彼女は、シンプルな歌詞の意味を読み解いて、自然と笑みを零していた。



何にもいらない。何も欲しくない。
貴方がいれば、それが私のロマンスになるのだもの。



そんな意味合いだ。



今日の授業で、二人の間に特別なことは何も無かった。
ただ互いのことを少し知り得ただけで、突然のキスも、頭を撫でてくれる掌も、肩を抱く力強い腕も無かったけれど、真菜は何故か満ち足りていた。



「ロマンス、か・・・」



CDケースに貼り付けたピンク色の付箋にキスをしてから、真菜は立ち上がった。
シャワーでも浴びて、今日は幸せな気持ちで寝ることにしよう。
部屋のクローゼットからバスタオルを取り出し、入浴の準備を始めた。

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