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講義の終わりにロマンスを
第5章 My Romance
* * *
バレンタインが合格発表だなんて、まるでドラマみたい。
呟く私の横で、先生が小さく笑い声を上げる。
マフラーで隠してるつもりでしょ?
でも知ってる、口端が、きっと意地悪に持ち上がってる。
ちょっと先生を睨んでから、軽く肘鉄を食らわせた。
「っと、こらこら。真菜ちゃん、暴力反対」
身体を捻って私の攻撃を交わす先生は、冗談の延長で遊ぶ少年みたい。
でも、学校の校門が見えてくると、急に先生の顔になるから私も不安になる。
私と先生のためだけじゃない。
この大学に受かって、好きな勉強をしたい。
そのために、苦手な数学も、きちんと勉強してきた。
何度解いても引っかかる論理問題に、先生が嫌な顔ひとつしないで根気強く向き合ってくれたのも覚えてる。
自分のためにも、先生に感謝を伝えるためにも。
(合格したい―――)
開かれた校門の中に、厚手のコートと緊張感を身につけた受験生が、次々に吸い込まれていく。
一瞬、緊張で足が止まりかけた私を、先生の長い腕が支えた。
「平気?」
「・・・はい」
返事の吐息の白さに、緊張が増した。
例年だと寒さが緩んでもおかしくない時期だけど、今日の最高気温は7度まで。
手袋をしたままの手で、鞄の中を探ると、掲示板へ流れる人混みに歩調を合わせながら、私は受験票を取り出した。
横から出てきた先生の手に、それを素直に渡す。
「072・・・、っははは。すごいイイ数字だね」
「いい数字?」
首を傾げる私に、先生はニヤニヤ笑ってから、受験票を返した。
その笑顔は、"先生"じゃない時の、先生の笑顔。
「ま。俺はあそこで待ってるから。真菜ちゃんは、自分で、結果を見ておいで」
「はい」
言葉の意味はいまいち分からなかったけど、少し離れた大きな木の方へ移動する先生を見送って、人だかりが目指す場所へ私も進んだ。