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講義の終わりにロマンスを
第5章 My Romance
合格発表の掲示前で、一度目を閉じて深呼吸した。
沢山の声が聞こえる。
喜んでいる声、悲しんでいる声、悔しがっている声、笑っている声。
沢山の声が、押し合いへし合い私の鼓膜を叩いている。
(・・・・・・)
無意識に、コートのポケットに手が伸びる。
黒いネームプレートを強く握った。
緊張して乱れかけた心を、長い息で整えて、覚悟を決めて、私は顔を上げた。
* * *
木の根元へ歩いて行くと、マフラーを肩に垂らした先生が笑顔で待ってるのが見えた。
決して心配していない、そんな表情に、湧き上がる幸せに押されるまま、私の足が早まる。
少し小走りになる私に、先生が無言のまま両手を広げて。
その腕に、私は飛び込んだ。
最初に、どの言葉を伝えればいいんだろう。
受かった、なのか。
ありがとう、なのか。
大好き、なのか。
伝えたい思いが溢れ過ぎて、どれを優先すればいいか分からない。
強く抱きしめられる腕の中で、思わず涙だけが溢れそうになる。
涙を堪えようと反射的に上を向くと、一瞬の間も置かずに唇が温もりに包まれた。
私も先生の背中に両手を回して、少し背伸びしながら唇を開く。
絡まる舌が心地よくて、零れた涙が目尻に一筋流れた時、先生がふっと唇を離して、私の耳元に寄せた。
「おめでとう、真菜」
その言葉の魔力に、言い知れない幸せを感じて、瞳に新しい涙が泉のように湧き上がった。