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下剋上ラバーズ
第2章 めんどくさい隣人
すごむと、女は観念したようにそう言った。そしてよろよろと立ち上がり台所まで歩いていくと、ポリ袋に氷をがさがさ詰め込んで戻ってきた。

俺が手に奴の死骸入り袋を持っているせいか、半径一メートル以内には寄ってこない。

『どうぞ』

『おう』

『あの……まあ……なんだかんだで、ほんとうにありがとうございました助かりました。迷惑かけてごめんなさい』

『もう虫ごときで騒ぐなよ。キンチョールでもゴキジェットでも買っとけ』

『バルサンも買います。……あ、よかったらこれ、実家から送られてきたじゃがいもあげる! お礼に!』

『お礼とかいらねーから。今後騒がなければそれで』

『ええ……いっぱい送られてくるから食べきれなくて困ってたのに……』

『さてはお礼じゃねえな』

 言うと、女はへへ、と笑った。俺はそのとき、初めてその女をまじまじと見た。

 大きな猫目、鼻頭のほっそりした鼻梁、桜色の小さな唇に、抜けるような白い肌、そして、そこまでの清涼な美しさを真っ向から否定するような、けばけばしい金髪。

 アンバランスだった。清廉さとくたびれが入り混じったような。情熱と諦念が同居するような。そんな奇妙なアンバランスさだった。

でも、そのアンバランスさに、何か言い知れない魅力を感じたことを、俺はここで認めておこう。本人には絶対一生言わねえけど。


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