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蜜刻に揺れて
第11章 at this late hour、too late
定時で会社を出た静は真っ直ぐ竜の家には向かわずデパ地下に寄り、摘める惣菜を山の様に買った。

いつかの竜の冷蔵庫は飲み物ばかりで食事の材料になりそうなものは殆ど入っていなかった。

美味しそうなスィーツも特別に買って、さながらパーティーの買い出しの様な紙袋を下げ、一刻も惜しくてタクシーを停めた。

合鍵を取り出すだけで頬が緩む。

ゆっくりと、噛み締める様に鍵を回すとカチャンと小さく響いて開錠した。

玄関に脱ぎ散らかった靴と、無造作に投げ出されたデイパックと上着がしんと静まっている部屋の中に確かに主がいる事を無言で告げていた。

キッチンで食材を冷蔵庫にしまい、上着を掛けるとそっと寝室のドアを開けた。

暗闇にリビングの光が差し込んで、その姿を浮かび上がらせる。

足音を立てない様に、起こさない様にゆっくりと傍にしゃがみ込んで、顔を覗き込んだ。

規則正しい寝息と、僅かな月明かりが落とす長い睫毛の影。

名前を呼びたいけれど、起こすのが偲びない。

いつまでも見つめていられる。

この寝顔を見つめられるだけで。

それだけでも好きになって良かったと思える。

「…竜…おかえり…」

竜の頭の傍に手を添えて頬を乗せる。

「ただいま」

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