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フルカラーの愛で縛って
第1章 檻

詩織の左の内腿を赤い液体で染めると、男は尻ポケットに突っ込んでいた絵筆を取り出し、その液体を筆先で付け根へと寄せ始める。

詩織が思わず眉を震わせた。

男の視線が自分の顔に降り注いでいるのを感じる。

意識して焦点を遠くに固定するも、その絵筆は茂みに隠された詩織の花弁の際(きわ)までを赤く彩っていく。



(・・・・・・)



一度筆先を離して、男はボトルの口を彼女の左の項に押し付ける。

ゆっくり傾ける動きに、重力に従った液体は詩織の鎖骨を撫でて左胸の先端へ1本の筋を描いていく。

既に勃ちあがった乳首の先端まで降りたローションは、そこから細い糸を引きながら粘着質の雫になって詩織の左太腿にぽたり、と着地した。

先に彩られていた赤のすぐ傍に、小さな水玉模様がポトポトと、飛沫のように模様を刻んだ。




男は淀みない動きで詩織の背後に回る。

描かれる場所では無い、その背中に、赤い液体をドロリと多めにかけると、絵筆でひとすくいして、彼はモデルの右側へ移動した。

「目を閉じて」

詩織の瞼を降ろすと、筆の先で右目の周りだけ赤く縁取っていく。

顔の左右の印象を変えると、もう一度、臀部のパレットから赤を取り、彼は腕を彼女の懐へ伸ばした。

詩織が足を抱える両腕の隙間に手を入れて、右の乳輪にも赤い色を刷(は)く。

もう、目を開けても構わないことは分かっていたが、詩織は目を開けられない。

首筋と、右の二の腕、右の手首にも赤いラインを幾つか描き、彼は身体を起こした。





「詩織。目を開けなさい」





「・・・・・!」





取り戻した視界に映り込んだ男の顔に、詩織の顔が慄(おのの)く。

眼鏡の奥の瞳が、解剖でもするように自分の顔を執拗に覗きこんでいる。

温度の感じられない視線が、まるで爬虫類のようで、詩織は戦慄した。

一連の彼女の表情を見届けてから、彼は素早くイーゼルのある場所へ戻り、音も立てずクロッキー帳を手にした。
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