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フルカラーの愛で縛って
第1章 檻



彼女の身体にへばりつく赤の位置を一心不乱に描き足すと、携帯端末の音に合わせて手を止め、彼は立ち上がった。

一度彼女のフォルムを強く見据える。

睨むような視線は、その景色を脳裏に焼き付けているようだ。

数秒の凝視のあと、マスキングテープを切りながら、彼はさっさと詩織の傍に歩み寄る。

ローションで濡れた臀部付近にはテープが貼れないため、尻の横のラインに黒い印をつけて、それ以外は先程と同じ場所へマーキングする。

その間も無言の彼は、あっさりとテープを施し終えるとイーゼルの前に戻った。

そこで、クロッキー帳を持って、立ったまま壁に寄りかかる。

部屋を出ないつもりだ。






丸台の上で、スマートフォンが「10分」をカウントしている。

休憩中にも関わらず、男は素知らぬ顔で椅子に座る詩織の顔をデッサンしている。

身体の強張りを解すため、立ち上がって動きまわったり、背後を向いて自分を庇うことも出来たが、詩織は動けなかった。

最初、彼女は左足も持ち上げて椅子の上に体育座りになり、男の視線から逃れようとした。

だが、つま先を浮かせた瞬間、椅子の座面と太腿の間のローションが一瞬糸を引き、はっとして動きを止めた。

そこまで厳密に気をつかう必要なんてないのだ、この男に。

そう分かっているのに、逡巡してから息を吐き、彼女は背中を丸めた。

両手を重ねると下になっている掌を椅子の縁に引っ掛けるようにして少し重心の位置を前へずらした。

足は開いたままだが、この格好なら重なりあう手首で茂みの奥を直視されることは防げる。

彼女は目を閉じ、同じ空間にいる男の存在を極力無視するように務めた。



鉛筆が紙を擦る乾いた音だけが響いている。



そのうち、詩織の唇が薄っすらと開いた。



湿った吐息が音もなく零れ落ちた。



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