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フルカラーの愛で縛って
第2章 花
■花■
もう7月だというのに、霧雨が音もなく降り続いている。
淡いブルーのフード付きコートと閉じた黒い傘を持って、詩織は駅前の大型書店に立ち寄っていた。
次にBARで弾く曲を探すついでに、国崎に頼まれていたものも一緒に探そうと思ってのことだ。
楽譜はすぐに見つかった。
問題は、BARに飾るにふさわしい絵画が何か、という難題だ。
黒一色の壁に、何か1枚、空間を彩る絵画か写真を飾りたい、と国崎は詩織に相談していた。
こういった美的センスは、女性の方が優れているだろうから探してもらえると助かる、というのが彼の言い分だ。
(んー…)
最初、詩織は絵画のコーナーで、有名画家の絵やイラスト、前衛的なポスターの画集などを見ていたが、なかなか納得の行くものが見つからない。
恐らくポスター辺りが大きさ的にも程よく、フレームに入れて奥の壁に飾ると丁度良さそうなのだが。
(それか、お酒のボトルの写真とか)
琥珀色の液体がボトルから宙に舞うような、動きを感じる写真があったら、BARに訪れた人達も気軽にアルコールを飲もうという気分になるかもしれない。
傘をステッキのように扱い、先端をリノリウムの床にのんびりぶつけながら、彼女は写真集のコーナーへ移動する。背表紙を目で追えば、『世界のカクテル』や『ワイン50選』など、それらしいものも並べられていた。『シングルモルトのある風景』という写真集を引き抜いて開くと、異国の地のBAR風景と、グラスに入ったウィスキーのアップを収めたセピア色の写真が目に入る。
(ちょっと、違うかな)
首を傾げて本を戻そうとして、彼女の目が白地に黒い明朝体の単語を捉えた。
息を飲んだ彼女は思わず持っていた本を取り落として後ずさる。
「っ!」「わ!」
不意に後退した彼女に、背後の2人連れが声を上げた。
はずみで、持っていた傘さえ床に倒し派手な音を立てた詩織は、焦って振り返った。
「あの、ごめんなさ…、あ」
「お」「詩織さん」
そこにいた男2人は、詩織も良く知る人物だった。