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フルカラーの愛で縛って
第2章 花

「早いな、詩織」
「うん、ちょっと早く着いちゃったの」

まだ客のいないカウンターで、2人のバーテンダーが作業をしている。
黒髪に茶髪混じりのバーテンダーに声をかけられ、詩織はコートを脱いで片手に持った。
スツールを回し、客を装って入り口に一番近いカウンター席へ腰掛ける。

「壁に飾る例の件、なかなかピンと来るのが見つからなくて」
「あぁ、あれか」
「もうちょっと待ってね? 国崎さん」

国崎と呼ばれたバーテンダーが、シェイカーを洗いながら頷く。
仕事の合間に束の間触れられる、BARのメンバーの人間的な温もりが、詩織には心地よい。
時折見せる彼女の少女のような一面を理解しているのだろう。
カウンター奥側に立つ黒髪のバーテンダーも、特に咎めることなくボトルを磨いている。

「何か飲まれますか? お客様」

フロア奥のオーダーを黒髪のバーテンダーに通してから、小鳥遊が詩織の傍にやってきた。
コケティッシュに振る舞う小鳥遊に愉しそうに微笑むと、詩織は「んー」と考えるふりをする。

「アルコールは駄目だぞ、詩織」

オーダーされたカクテルを作りながら、奥のバーテンダーが窘めた。

「えー。佐々木さん厳しい」

残念そうに肩を落とし、彼女がしょんぼりと息を吐くのを、国崎が穏やかな視線で見つめている。
エレベータ前の鈴が客の来訪を知らせ、小鳥遊が接客に向かうのを見送ってから、詩織が国崎を見た。

「アイスティー、…にウィスキーをちょっぴり」

最後の一言だけ声を潜める詩織に、国崎が涼しげに微笑む。
従業員全員で飲み会をしたこともある彼らは、互いの限界は把握している。
素知らぬ顔で細長いカクテルグラスに氷と紅茶を注ぐと、国崎は詩織の希望通りにウィスキーを数滴だけ垂らした。
彼女の繊細な舌ならば、わずかな違いも分かるはずだ。

「どうぞ、姫」
「ありがと」

茶化す男に微笑むと、詩織は細長い指をグラスにかけた。
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