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フルカラーの愛で縛って
第4章 音

* * *
夜10:30。
今日のドレスを控室の赤いハンガーにかけて、"使用済み"のハンガーラックに戻すと、詩織は一つ深呼吸してから肩掛け鞄を手に取った。
木曜日は普通のサラリーマンならば週末が近づく楽しい夜だが、詩織にとっては1週間の始まりだ。早く帰って明日に備えようと控室のドアに手をかける。ふと振り返って控室の中を一瞥した。忘れ物が無いことを確認すると、控室を後にする。
7階にある、このBARは、控室から建物1階へ続くような直通のエレベータが無い。
控室のある"STAFF ONLY"の通路突き当りには非常階段に続くドアがあるが、これは主に仕込みの際にバーテンダーが利用するのみで(とはいえ、8階にあるオーナー室兼アルコール保管庫との行き来で使うだけだ)、詩織も他のバーテンダーも出退勤の際にはフロアを横切って、客と同じエレベータで地上へと戻る。
クリーム色のボータイブラウスに淡いグリーンのフレアスカートに着替えた詩織が、フロアへ出た。
望月がエレベータで誰かを見送っているらしい。カウンターバーの陰に隠れて入り口は見えないが、一礼するウェイターの姿に、詩織は足を止める。お客様と共にエレベータに乗るのは、従業員兼用といえど何か申し訳ない気がして、詩織は常に空いたタイミングでエレベータを利用させてもらうように心がけていた。
今夜のカウンター席は空きが多い。演奏中も、ほぼテーブル席が満員だった。
一人客が少なかったのかもしれない、そんなことを思いながら何となくスツールに手をかけると、ふと小さい声で名前を呼ばれた。

