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フルカラーの愛で縛って
第4章 音
「詩織」
国崎が少し身体を乗り出すように呼びかけている。
珍しく真剣な面持ちのバーテンダーに、詩織が反射的に「はい」と返事をすれば、彼は難しい顔のまま唇を開いた。
「今日は、非常階段から帰ったほうがいい」
「え?」
唐突な指示に驚き、エレベータ前へ視線を戻す。だが、接客が終わった望月は平常通りの動きでフロアの中を見渡し、客の去ったテーブルへ、グラスと灰皿の回収へ向かっている。
特に事故やトラブルがあったようには見えないし、入り口傍でシェイカーからカクテルを注ぐ庵原も普段通りの動きに見える。
「なんで」
「いいから」
厳しくは無いが、有無を言わせない語調に詩織は微かに顎を引いてから静かに一つ頷いた。
「分かった」
まわしかけたスツールを戻して、詩織は鞄を肩にかけ直す。
「お疲れ様、国崎チーフ」
そっと告げると、微笑んで頷く国崎に背を向けて、再び"STAFF ONLY"の扉の中へ戻っていく。
控室の方へ戻る詩織に気付き、望月が片眉をあげるが、窓際の客がメニューに手をかけたのを見て、彼もウェイター業務に戻った。


  *  *  *


控室前から繋がる裏手の非常階段は詩織も極稀にしか使ったことが無い。
BARの特別な休みの日に従業員同士で飲み会をした時と、常連の一部を招いた内輪のパーティをした時に8階からボトルを下ろす時に使っただけだ。
1階までヒールで降りるのは初めてだ。
薄暗い通路の奥の扉に触れて、手探りで鍵を開けると扉を外へ向かって開く。夏の夜を感じさせる密度の高い空気がむわっと肌を包む。余り得意ではない湿気に一瞬眉を寄せながら、詩織は後ろ手でドアを閉めると階段を見下ろした。昼間の熱を蓄えた鉄の手すりは仄かに温もりを残している。細い指先で、その黒い支えを掴むと、詩織は、ゆっくりと鉄製の階段を下り始めた。
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