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フルカラーの愛で縛って
第4章 音

  *  *  *


訳もなく緊張しながら表通りを窺った詩織だったが、細い通路には誰もおらず、歩道を歩くサラリーマン達の姿も普段と変わらない。
思わず顔を引っ込めてから、ふぅと安堵の吐息を漏らし、詩織は鞄の中からハンカチを出そうとした。
俯いて鞄に手をかけた時、視界に見えた違和感に、彼女の動きは完全に制止した。
大通りで酔っぱらいが何か叫んでいる。が、聞こえない。
黒い靴が、詩織の視界に徐々に踏み入ってくる。その足音も聞こえない。
こざっぱりとしたデニムと、白いシャツが視界を侵し、身動きできない詩織の心臓を強く締め付けた。
目の前に立った人間の手が詩織の顎をすくい上向かせた。

強制的に上げられた視界の中、街頭の灯りを反射する眼鏡と、その奥の血走った目が詩織を見ていた。

「・・・・・・!」

刹那、詩織の脳裏におぞましく狂おしい記憶が一気にフラッシュバックした。
四つん這いで尻に爪を立てられながら背後から犯された記憶、手首を手錠で拘束され熱い襞の中にブラックベリーを幾つも入れられた記憶、乳首を洗濯バサミで挟まれて窓辺に立たされ羞恥に藻掻いた記憶、男の熱棒を喉奥まで咥え込まされて息が止まりそうになりながらも身の内を苛む張り型の凹凸に床をぐっしょりと濡らした記憶―――。
表面張力を越えて一気に噴き出した記憶が、気管を埋め、息が出来なくなったように、詩織は強く息を吸い込んだ。

「ひっ・・・」

身体の求めに反して、満足に酸素が吸えない。
クラクラする頭が「逃げろ」「逃げろ」と告げている。
もつれる足で、男の手から逃れようとしたが、膝が笑ったように緩慢な動きになり、男に先を読まれ阻まれる。

「詩織…!!」

「ッ!」
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