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フルカラーの愛で縛って
第5章 炎
ポケットから取り出したBARの燐寸(マッチ)を2本同時に擦って、赤い火を灯すと、バケツの中に放り込む。
湿度のせいで、ゆっくりと燃え移っていく炎を見ながら立ち上がり、詩織の前へ戻り、その顔を覗きこんだ。
詩織の視点は、先程まで、あの男が立っていた辺りでぼんやりと止まっている。
時が止まったように固まっている彼女の顔に、庵原が、そっと右手の指を添えた。
そのまま、右掌で頬を何度か叩く。

「詩織ちゃん」

数回叩いたところで、カメラのピントが合うように、詩織の視線が急に庵原の顔に向いた。

「・・・・・・あ」

反射的に後ずさりかけた彼女を、庵原が手首を掴んで引き寄せる。

「ッ!」

急に抱きしめられて一瞬パニックになりかけた彼女の目に、奥のバケツの中で燃えている炎が目に入った。

何かが燃えている。

まだ呼吸の早い彼女の背中を、庵原の掌が静かにゆっくり撫でている。

炎から時折はらりと舞っては消える火の粉を見ていて、やっと、詩織の心が軋みながら動き出す。

「……庵原さん」

消えそうな声で呟いた詩織に、庵原は腕の力を緩めて、そっと詩織を解放した。

「平気?」

肩を掴んだまま顔を覗きこまれて、詩織が静かに頷くと、男は軽く溜息をついてから手を離し、彼女と共に燃えているバケツの中身へ視線を向けた。

「全部、燃やしといた」

取っといた方が良かった?

その言葉に首を振る詩織に軽く頷くと、その手を優しく握りこむ。

怯えて小さく震えた指に気づかないふりをして、庵原は彼女に顔を向けると微笑んだ。

「おいで」

いつもの眠そうな笑みで、詩織に促すと、庵原はビルの裏から表通りへと彼女を連れて行く。

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