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フルカラーの愛で縛って
第5章 炎
* * *
エレベータに乗り込むと、庵原はズボンのポケットからキーを取り出し階数パネルの下の鍵穴に小さな鍵を差し込んだ。仕込みで8階を利用することがあるバーテンダーだけは、エレベータで8階へ直通することが出来る。最上階のパネルを押すと、動き出した箱の壁に寄りかかり、庵原は、ふっと息を吐いた。
意識は戻ったものの、詩織の顔は青ざめたままで表情も硬い。BARでは決して見せない沈んだ顔つきで唇を噛み、俯き加減で鞄の紐を握りしめている。その指先が白くなり、無意識に力を込めているのが伺えた。
8階に到着し、エレベータから降りると、庵原は詩織に片手を差し出す。
触れる前に一瞬ためらう彼女を黙って待てば、触れた指先を柔らかく握りこんでから、庵原は無人のフロアの壁を反対の手で探った。
3つあるボタンの内、一番下のボタンを押して、フロア奥のソファ近くにオレンジ色の灯りを灯すと、彼は詩織の方へ振り返った。
「詩織ちゃん。後で家まで送るから、ちょっと待ってて貰える?」
その言葉に、詩織の表情が微かに動く。
「まさか、あいつ、詩織ちゃんの家も、知ってんの?」
庵原の言葉に、槙野の般若のような形相を思い出し、詩織の身体が強張った。
首を横に振りながらも、詩織は、あの執念で自分の家を知られていたら…と、一瞬考えてしまう。また息が詰まりかける。
指を握ったまま、庵原は無言で答える詩織を見て瞬くと、ゆっくりフロアを横切り出した。奥のソファへ彼女を導き、腰掛けさせる。
「とりあえず、ここで待ってて。何も心配しないでいいから」
いいね、と腰掛けた彼女の顔を覗きこみ、微かに頷いたのを確認すれば、彼はフロア奥の備品置き場へと移動した。