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フルカラーの愛で縛って
第5章 炎
詩織の返答から、庵原は察した。あの男は、詩織が帰宅するのを尾行して家の位置まで突き止めようとしていたに違いない。だとすれば、今、家に帰すのは危ない。
男を地に沈めてから10分程か。そろそろ意識が戻ってくるタイミングだ。ここで詩織が家に帰ろうとして、あの異様な男に見つかったら、気配を消して彼女の後をつけていくのは想像に難くない。

(まるで変質者だな)

棚の奥からステンレスのバケツを取り出しながら、庵原は細い目を更に細める。
今夜は自宅に帰さない方が安全かもしれない。
どちらにしろ、一人で帰すのは懸命な判断とは言えないだろう。



予備のバケツを持って戻った庵原は、「エレベータ施錠しとくから」と、無粋な来客は来ないことを暗に告げてから、一人、BARに戻った。




  *  *  *



新しいバケツを持って戻った庵原に、国崎は何も言わなかった。
反面、グラスを下げにきた望月は、「30分も居なくなるとか、怠慢です」と小声で猛抗議していた。庵原は反論せず「あぁ」と一言上の空で返しただけだった。



「セックスオンザビーチ」
手を洗っている最中、国崎がオーダーを流してくる。
うす、と一言だけ返事をして、庵原はウォッカのボトルを手にすると徐ろに空中に放り投げた。
手を返してキャッチすると、そのまま氷の入ったグラスに入れ、そこから彼は、カクテルを作ることに、ただ集中した。
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