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フルカラーの愛で縛って
第5章 炎
深夜0:50。
最後の客の接客をしている望月をよそに、グラスを洗いながら、庵原は国崎を見た。
彼は洗い終えたシェイカーをタオルで拭いていたが、隣の視線に気付き唇だけで反応する。
「なんだ、庵原」
「あんた、詩織ちゃんが危ないって分かってたのか」
「―――。確信があったわけじゃない。視線の動きが妙だったから注意していた。2ステージ見た直後に会計を済ませたのに、詩織が出てくるまで立ち上がらなかったからな。何も知らずに帰った詩織が、後からストーカーにでも合ったら…、マズイだろ?」
最後の一言だけ、国崎は視線を庵原に向けた。
つくづく嫌な男だ。
まさか、こいつ俺の感情に気付いてんのか? いつからだ。
無言のまま答えない庵原に、国崎は特に気にかける様子もなく布巾を畳み直している。
「実際はストーカー以上の妄想狂が詩織を待ち伏せていた」という言葉も含めて、全ての言葉を飲み込みつつ、庵原は蛇口を捻って水を止めると、洗い終えたグラスを持ったまま、真面目な表情で国崎を見つめた。
「ん?」
顔を向けて片手を差し出す国崎に、洗い終えたグラスを渡し、庵原は瞬いた。
「前から、あんたのことは嫌いだったけど、益々嫌いになった」
その言葉に、国崎は思わず笑いながら、受け取ったグラスを拭き始めた。