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フルカラーの愛で縛って
第5章 炎

  *  *  *


深夜1:20。


「先に上がれ」と指示する国崎に一礼して、着替えを終えた庵原は8階に上がった。
詩織はソファに沈み込むように寄りかかり、か細い寝息を立てていた。
頬に、くっきりと涙の跡が筋になっている。泣きつかれて眠ってしまったのだろう。

起こさずに連れて行ってやりたいが、流石に彼女を抱いたままエレベータを操作するのは難しい。かといって、ここで一晩過ごすのは居心地も良くないだろう

(待ってろ、って言ったしな)

庵原は少し考えてから、暗い窓辺に歩み寄りガラス越しに見える歓楽街の電飾を眺めながら、携帯を取り出した。ビルの目の前の道に迎えを1台、横付けするようにタクシー会社に依頼する。
話し終えて携帯を仕舞う彼の、振り向いた視界の中で、詩織が小さく身じろいだ。見れば、重そうな瞼を持ち上げて、こちらを見ている。

「悪い、起こした?」
「……うぅん、大丈夫です。ごめんなさい、ちょっと、寝ちゃってました」

冴えない笑みのまま謝罪する詩織に近づき、気にするな、と首を振りながら、庵原は右手を差し出した。

「寝れる時に寝る方がいい。――立てる?」

頷いた彼女の手を引いて立たせると、共にエレベータの前に戻る。

8階の電気を消してから、地上まで降りれば、タイミングよく滑り込んできた迎えのタクシーに庵原は詩織と乗り込んだ。

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