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フルカラーの愛で縛って
第1章 檻

「詩織、少し足を開いて。君の綺麗な花弁を見たい」
槙野の言葉から"指示"だけを聞きながら、詩織はミリ単位で身体の各部位を動かしていく。
「相変わらず、君の肌は綺麗だ。真っ白でなまめかしい。ミロのヴィーナスのような色気がある」
淡々と語る彼の言葉に眉一つ動かさず、心も動かさないように詩織は意識を切り離そうとする。
「今日は君の内腿の肉を描きたかったんだ。豊かな乳房が隠れるのは残念だけど、むっちりした、その太腿を、こうして描き出せるのは僕にだけ許された特権だね」
男は書いている時に喋る癖があった。
「ほんの少しだけ微笑んで。…そう、それだ。男を誘っているようで、淫らな刺激を待っているようでもある、その表情(かお)がいい」
一度、鉛筆を咥えて立ち上がり、シャツの袖を捲る。その間も、彼は詩織の肢体から目を逸らさない。
「君自身の快楽への欲求が、滲み出ている気がするよ」
「詩織、どう使おうか、この液体は」
「君が隠している乳首に塗ろうか。それとも、足の付根に塗って、少しずつ近づく快感を味わうのが好きかい?」
「目線が下がるのはダメだ。…もう少し、遠く。そこだ。キープして」
「あと2分。まだ我慢できるだろう? 我慢しなさい」
「あぁ、そこは濡らしてはダメだよ。前も言ったのに、もう濡れて光ってきた」
「あと1分だ。詩織、まだ欲情してはいけない。早すぎるだろう? さぁ、深呼吸するんだ」
詩織の聴覚が正常である以上、男の言葉を無視することは出来ないし、心を閉じることだって出来るわけが無い。
男は理解して喋っているのだ。
真面目な顔をして、芸術家を気取りながら、指示の合間に、まるで蛇の舌のように細長い猥褻さを絡めてくる。
濡れているはずが無い。たった15分のデッサンで濡れるはずが無いのに、視線さえ固定された状況では、彼が何を見て、どんな風景を切り取ろうとしているかも確認しようが無い。
(焦らないで。大丈夫)
気持ちを落ち着かせようと深呼吸する。
直後、男の指示に従った己に気付き、詩織は胸にドロリとしたものがとぐろを巻き始めたのを感じる。
この感覚は、良くない兆候だ。

