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フルカラーの愛で縛って
第1章 檻




―――ヴヴヴヴヴ





丸い木の台の上で、槙野のスマートフォンが震えた。
一旦休憩だ。
だが、詩織はすぐには動けない。次にデッサンを再開する時、同じポーズを再現できるようにマーキングする必要があるのだ。
男がイーゼルにひっかけていた小さな黒いマスキングテープを手にする。
動かずに待つ詩織に、槙野は殊更ゆったりと近づいた。
その体の曲線を確かめるように視線で撫でながら、彼女の目の前にやってくる。




「詩織。やっぱり君は描かれている時が、一番美しい」




呟きながら、彼はマスキングテープを小さく千切ると、詩織の背後に回った。
臀部と椅子が触れている場所へテープを貼り付ける。
一瞬、故意か事故か、彼の指先が彼女の尾てい骨を掠める。




詩織は動けない。




「何も感じていないフリをしながら、その体の中で甘く子宮が疼いているのが見て取れる」




再び、彼がマスキングテープを千切る。
左の太腿の外側の位置にマーキングを施した。
その手は、左のつま先にも黒いテープを貼り付ける。




「僕の言葉が嘘だと思うかい? もう、こんなに椅子を濡らして」




また、マスキングテープが破かれる。
男は詩織の正面に立つと、股間を覗きこむように、静かに膝立ちをした。
テープを持った手を、彼女の右足の付け根へ伸ばす。
テープの端が太腿に触れた。
その手は、右の踵の位置に印をつける。




「君が想像しているのは、誰の指なのかな。僕なのか、それとも、他の男か」





指じゃ、ないかもしれないね。
優しく微笑んで、彼は最後に、詩織の右足にもテープを貼った。
彼女が足を抱えた時に、どのラインに腕が来るか確認できるように。




そこまで終えると、槙野は不意に全ての興味を失ったように眼鏡を外して立ち上がった。
彼女の存在自体を無視して、彼は電気を消すと無言で部屋を出て行った。



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