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フルカラーの愛で縛って
第5章 炎
* * *
「―――ッア!」
息苦しさから逃れるようにスウェットの首周りを両手で掴みながら、詩織はばっと目を見開いた。思わず跳ね起きて、身体にまとわりついている布団を蹴り飛ばすと見覚えの無い室内に目を凝らす。荒い息と激しい心臓の音が身体の中からどくどくと響いてドラムのようだ。暗闇の中に、何かがぼんやり浮かび上がり始め、目が慣れるにつれて、呼吸が少しずつ収まる。
そして、はっとした。
ここは、庵原の家だ。自分は、夢を見ていたのだ。蛇に、犯される、悪夢を見ていただけだ。
(もう、覚めたの?)
身体中がざわざわとして落ち着かない。
目を閉じて、もう一度開けたら、あの男が目の前に現れてしまう気がして恐ろしい。
吹き消しても消えない黒い炎のように、槙野の記憶が詩織の意識をあぶっていく。
(これも、夢、なら・・・)
庵原に助けられた、今日の出来事も全て夢で、ふと目が覚めたら、またモノトーンの檻の中にいる。そんな馬鹿げたことが起こるはず無いのに、自分の感覚が信じられず、詩織はベッドの上で身体を抱えて俯いた。
一度俯くと、もう二度と顔を上げられない。
闇が、怖い。
黒い闇がとてつもない何かを連れて来てしまう気がする。
じっと見つめていた膝に、濡れた刺激を感じた。
頬を伝って、降りだした雨のように、涙がポツリポツリと両膝を濡らし始めた。
(・・・誰か)
新たな涙が止めどなく湧き上がり、肩が震え始める。
(誰か、お願い)
とうとう詩織はしゃくり上げて嗚咽を漏らしだした。
(助けて―――)
詩織は知らない。
扉の向こう側で、庵原がドアに寄りかかり、苦しげな表情で目を閉じたまま、天を仰いでいたことを。