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フルカラーの愛で縛って
第6章 命
■命■
執念に囚われた男がBARに訪れてから3日間、詩織は庵原の家からBARに通った。
初日こそタクシーで送ってもらった詩織だったが、次の日からは電車でBARの最寄り駅まで行き、駅中のブティックで夏物のワンピースを1着買って、後は控室に置いてあった白いシャツを着回しに使った。
庵原は、家に詩織がいることを特段気にする様子も無く、終始自然体で過ごしていた。彼女がいる時に寝室に入ってくることは、ほとんど無く、詩織がシャワーを借りている間に細かいことを済ませるなど、極力、ストレスや負担がかからないように配慮しているようだった。
素っ気なくしてはいるが、決して邪険にはしない。
その飾らない空気は、詩織にとっては居心地が良かった。
あれから4日目。
月曜の朝、朝食を食べ終えた詩織は、皿を片付けながら、自宅に戻ることを庵原に告げた。楽譜を取りに戻りたいとか、服を着替えたいとか、そんな理由を告げたが、一番の理由である「何かから逃げている気がするから」という言葉は、口に出来なかった。
庵原は普段通りの飄々とした態度で「そ。分かった」と一つ返事で頷くだけだった。
頭を下げて部屋を去る詩織を、笑みを浮かべた庵原は、「気をつけて」と送り出した。
その夜も、詩織はピアノを弾いた。
カウンターでは2人のバーテンダー(佐々木と国崎)がカクテルをつくり、ホールを見渡すウェイター(小鳥遊)が客のオーダーを笑顔で受けている。
いつもと変わらぬ風景が、詩織の目にはモノクロ映画のように、どこか色を失って映った。