この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
曖昧なままに
第10章 密かに去って
慰安旅行を含め、体感的に非常に長く感じた休日も、過ぎてみれば束の間なのか。ひたすら会社に拘束される日常が、また始まろうとする――朝。
洗面台を前にして、シャカシャカと歯を磨く俺。鏡に映る自分の顔を何気に眺めていると、この数日の様々な場面が自然と脳裏を巡る。
「はあ……」
不意にため息をつき、歯磨き粉がダラリと口元に垂れる。眠気の疲労を残した、だらしない顔のバツイチ三十男。その脳はまだ、機能を発揮しようとはしてくれていない。
それでも目を覚まそうとして、口を濯ぎ顔をバシャバシャと冷水で洗う。そしてタオルを手に取り、顔を拭き終わった時だった。
「――?」
洗面台と洗濯機の隙間に、何かが落ちているのを見つけて、俺はそれを拾う。
「これ……愛美のか?」
恐らくは、ここで着替えをした時に、彼女が落としたのだろう。俺が拾い上げていたのは、黒い小さな財布であった。
※ ※
会社にて、午後三時の休憩時間のこと。俺は何時も如く喫煙所にて一服。そうして一息ついた後、上着のポケットから例の財布を取り出す。
俺は洗面所で拾ったそれを、そのまま会社まで持って来ていた。すぐ返してやらなければと思い、仕事終わりにでも待ち合わせよう考えたのだが。
午前中にその旨をメールで伝えたが、この時間まで愛美からの返信はない。
「困ってるだろうに……」
やや躊躇しつつも、俺は財布を開き中身を確認することにした。現金も然ることながら、免許証やカード類等の有無により、その緊急度は変わろう。
しかしざっと調べた感じでは、入っているのは数千円の現金のみ。その他はクーポン券やスタンプカードがあるくらいで、特に重要と思われるカード等は見受けられなかった。
これなら次に来た時でも、大丈夫かな……? 何となくそう判断し、財布を上着に戻そうとした時。その中から何かが、ヒラリと舞い落ちた。
「ん?」
どうやらそれは、写真のようである。俺は拾い上げて、そこに写されているものを目にした。
これ……誰なんだ? やや古びたその写真に愛美の姿はなく、写っているのは只一人の男だけ――。
しばしそれを眺めていると、突然俺の手から写真がパッと消える。
「何の写真ですか?」
いつの間に、そこに居たのだろうか。俺から写真を取り上げたのは、西河奈央であった。
洗面台を前にして、シャカシャカと歯を磨く俺。鏡に映る自分の顔を何気に眺めていると、この数日の様々な場面が自然と脳裏を巡る。
「はあ……」
不意にため息をつき、歯磨き粉がダラリと口元に垂れる。眠気の疲労を残した、だらしない顔のバツイチ三十男。その脳はまだ、機能を発揮しようとはしてくれていない。
それでも目を覚まそうとして、口を濯ぎ顔をバシャバシャと冷水で洗う。そしてタオルを手に取り、顔を拭き終わった時だった。
「――?」
洗面台と洗濯機の隙間に、何かが落ちているのを見つけて、俺はそれを拾う。
「これ……愛美のか?」
恐らくは、ここで着替えをした時に、彼女が落としたのだろう。俺が拾い上げていたのは、黒い小さな財布であった。
※ ※
会社にて、午後三時の休憩時間のこと。俺は何時も如く喫煙所にて一服。そうして一息ついた後、上着のポケットから例の財布を取り出す。
俺は洗面所で拾ったそれを、そのまま会社まで持って来ていた。すぐ返してやらなければと思い、仕事終わりにでも待ち合わせよう考えたのだが。
午前中にその旨をメールで伝えたが、この時間まで愛美からの返信はない。
「困ってるだろうに……」
やや躊躇しつつも、俺は財布を開き中身を確認することにした。現金も然ることながら、免許証やカード類等の有無により、その緊急度は変わろう。
しかしざっと調べた感じでは、入っているのは数千円の現金のみ。その他はクーポン券やスタンプカードがあるくらいで、特に重要と思われるカード等は見受けられなかった。
これなら次に来た時でも、大丈夫かな……? 何となくそう判断し、財布を上着に戻そうとした時。その中から何かが、ヒラリと舞い落ちた。
「ん?」
どうやらそれは、写真のようである。俺は拾い上げて、そこに写されているものを目にした。
これ……誰なんだ? やや古びたその写真に愛美の姿はなく、写っているのは只一人の男だけ――。
しばしそれを眺めていると、突然俺の手から写真がパッと消える。
「何の写真ですか?」
いつの間に、そこに居たのだろうか。俺から写真を取り上げたのは、西河奈央であった。