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曖昧なままに
第11章 遠くを訪ね
 激しい情事を終えて。心地よい酔いと疲れを感じながら、ベッドに横たわっている俺と奈央――。

 微睡を覚えつつある俺に、奈央が囁きかけような言葉をかけた。

「ねえ、連休……二人で何処か行こ」

「ん……?」

「そんなに、大袈裟じゃなくてもいいの。別に近場の温泉とか、場所は何処でも。……駄目?」

「いや……そうじゃ、ないけど」

 甘えるような奈央の顔を見て、俺は少し迷う。奈央を連れて旅行に行くことに関しては、俺も全く吝かではなかったが……。

「……すまない。俺、考えてることがあって」

「何か――予定?」

「予定って言えるかわからないけど、少し時間が必要なんだ」

「それって――私には内緒なの?」

「ごめん……」

「ふーん……あーあ、せっかくの連休なのになー」

 奈央はぷくっと頬を膨らませて、俺に背を向けるように寝返りを打った。

「奈央……」

 彼女が怒るのも当然だろう。俺はどう宥めていいものかと、言葉を探す。すると――

「中崎さん……ずっと何か……気にしてるよね」

 背を向けたまま、奈央がしみじみとそう呟く。俺の揺らぎを感じながらも、彼女はそれを今まで口に出さずにいたのだ。

 その気持ちを察した時、俺は心底申し訳なく感じる。

「俺は奈央だけを見ていたい、そう思ってる。その為に、ちゃんとしておきたいことがあるんだ」

 誠実に語ろうとした意図に反して俺の言い草は、まるで二股男が口にする常套句のようなもの。

 それでも、奈央は――

「私ね、これでも中崎さんを理解してるつもり。だから……それ以上は、聞かないから」

 そう言って振り向くと、俺に優しくキスをした。

「信じてるから、ね」

「うん……ありがとう」

 決して裏切ってはならない。その顔を見つめ、俺は強く己に言い聞かせる。

    ※    ※

 一夜明け、その朝方――。

 自分の部屋の帰った俺は本棚の前へ進む。そしてそこに置かれた、愛美の財布を手に取った。

「……」

 中より写真を取り出すと、写されている男の姿を改めて眺めた。そうした後、俺はその写真を裏返す。

 その片隅には小さな文字で、住所らしきものが記されている。

「一体……誰の?」

 再び愛美に会う為に――それは俺に残された唯一の手がかりであった。
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