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曖昧なままに
第11章 遠くを訪ね
 陽もとっぷりと暮れ、見知らぬ田舎の地に一人佇む――俺。

 木造の古い家屋は、酷く荒んでいるように見え。ぼんやりと洩れる灯りがなければ、人が住んでるとは思わなかったに違いない。

 暗がりの中。目を凝らして表札を見るが、字が掠れていて読み取れず。俺は携帯を取り出すと、その光でそれを照らした。

「……遠藤」

 思わずそう口に出し、心が俄かにざわめく。やはり、ここは……。そう感じて、俺はもう引き下がれなくなった。

 曇りガラスが張られた、引き戸の玄関。その脇を探しても、インターホンの類は見当たらない。俺は一つ息をすると、覚悟を決めて声を上げる。

「御免下さい。夜分に恐れ入ります!」

 思いの外、口から出た大きな音量。それが却って、その後の沈黙を際立たせていた。辺りはシーンと水を打ったように鎮まり、俺は再び声を発しようかと迷う。

 と、その時――玄関に電球の灯りがパッと灯り、曇りガラスに人影が映った。キシキシとネジ式の鍵を開き、滑りの悪い引き戸が鈍い音と共に開く。

「と、当然、失礼します」

 一気に緊張を増した俺は、出て来た人物の顔を見る前に、とりあえずの一礼。

 すると――

「あの……どちら様でしょうか?」

 聴こえたのは女性の声。だがそれは愛美ではなく、もっと年配者のもの。俺は恐る恐る顔を上げ、その人物に視線を送る。

「……!」

 玄関で迎えたのは、恐らく五十代過ぎと思しき女性。否、実際にはもう少し若いのかもしれない。窶れた顔と、白髪の多く混じった髪。それと全身から漂う『疲れ』た雰囲気が、年齢より老けているように、感じさせているのだろう。

 そして俺は直感している。それは、整った顔立ち――殊にその眼差しによる。彼女は恐らく、愛美の母親であろう、と。

 呆然とする俺に、その女性は再び質す。 

「それで、貴方は……?」

「あ、はい。私は中崎と申しまして――」

「はあ。中崎……さん?」

「その……遠藤愛美さんの……友、いや、知り合いの者でして」

 少しくらいシミュレートしておけばと後悔するくらい、しどろもどろに話す俺。

 しかし、彼女はそんな俺を怪しむ様子もなく――

「そうですか……愛美の」

 と見開いた目で、しげしげと俺を眺めた。

「どうぞ……お上がりください」

 そして――突如訪ねている俺を、あっさりと家へ招き入れる。
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