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曖昧なままに
第11章 遠くを訪ね
「え? あの……」

 いいのか……? 突然押しかけロクに話もせずに、家に上がるなど流石に厚かましい気もする。軒先で俺が戸惑っていると――。

「汚い家ですが、どうか……」

 彼女はそう言いい、そのまま家の中に進んで行く。

    ※    ※

 居間らしき六畳の和室。そこに通され、俺はそわそわと落ち着かない。

「何も、御座いませんが」

「あ、どうぞ御構いなく……」

 お茶を出され、恐縮しつつ頭を深々と下げた。

「……」

「……」

 居心地の悪い沈黙が訪れ、俺はとりあえず出された茶を啜る。

「それで――中崎さん、でしたか」

「あ、はい」

「貴方が愛美と――お付き合いをされている方?」

「ゴホッ――あ、いえ。付き合うと言えば……一般的な意味では、語弊がありまして、ですね。その……何と申し上げれば良いやら」

 俺は思わずむせ返り、言葉を濁すことに終始。本当のことを言える訳がないのだから、適当に誤魔化せばよいのだが。とにかく、情報が少な過ぎる。

 俺は気になることを、先に質問してしまおうと考えた。

「あの、失礼ですが。愛美さんのお母さん――でしょうか?」

「左様で、御座います」

「では、こちらは愛美さんの御実家?」

「いえ……この家は借家でして。愛美の生家は、今はもうありません」

「そう……ですか」

 当面この女性が予想通り、愛美の母親であることは確定した。しかし彼女の雰囲気と話しぶりから、何か深い事情を匂わせている。

「重ねてのお尋ね、失礼とは存じますが。愛美とは、どの様なご関係で?」

「えっと……ご心配されるような、関係ではない……かと」

「いえ、確かに娘を案じてはおりますが。もし男女のお付き合いがあるのなら、寧ろ有難いことなのです。私の胸の支えも、少しは下りるというものでして……。ですからどうか、本当の処をお教えください」

「はあ……」

 母親としての心境は、良くわからないが。そこまで言われれば、こちらも真剣に答えるべきだろう。そして質問の意味を、考えるならそれは――。

「違います。少なくとも私は、愛美さんの恋人ではありません」

「そうですか……」

 愛美の母親は俯き、とても落胆した様子であった。

「……」

 その様子を見て、俺は思う。

 愛美の秘密の一端に、この母親が少なからず関係してるのだ、と。
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