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曖昧なままに
第2章 単なる男女
 もちろん、妻が浮気をした事実が、許し難いことであることは変わらない。

 だが彼女をそこに向かわせたのは、やはり俺と過ごす日々にこそあったのだろう。後に当時の結婚生活を振り返った時。自分の日々の行動の中に於いて、些細なことも含めれば反省することが幾多思い当たっていた。

 夫婦間に起こる事象の責任を、一方にだけ押しつけることが、そもそも無理なのであろう。手前勝手に端的に言い方をするのなら、俺には妻を幸せにできなかった、という負い目が残されている。

 それを認めた時に、俺は怒る狂うことのみに終始していた自分の姿を、ひっそりと恥じた。

 そんな想いが残るからこそ、俺は新たな恋愛に際して、臆病になっているのかもしれない。だから一定の距離を保つ愛美に対して、俺も無暗にそこに足を踏み入れたりしない。

 否――恐らくはできないでいた。

 恋愛に興味が抱けない若い女と、恋愛に臆病なバツイチ男。

 そんな二人だったから、なのであろう。傍から見れば眠たくなるような退屈な関係は、辛うじて継続されていった。

 しかし俺は心根に於いて、できれば彼女と付き合いたいと、そんな気持ちがあることは否めない。それ故もし脈が無いのなら、そのままの関係を維持することは明らかに不毛。

 単に一緒に食事して、会話を楽しむ相手と割り切る方法もある。だが彼女にそこはかとなく魅かれてしまっている俺には、既にそれも難しいことだった。愛美を前にすれば、どうしてもそんな気持ちが頭を擡げることになろう。

 先の見えないこの関係を、続けるのか否か。その頃の俺は、そんな岐路に立たされていた。

    ※    ※

 愛美に出会ってから半年が過ぎ、季節は寒々とした冬を迎えている。

 街を歩けばクリスマス色で満開。至る場所でクリスマスソングが鳴り響くと、イルミネーションの輝きは大袈裟なまでに、華やかに夜の街を照らして止まない。

 一人身の俺にとって、その光景は決して歓迎すべきものとは言えなかった。

 とは言っても、元々がクリスマスに浮かれるような性格でもない。それにいい歳を食らった男が、今さらクリスマスがどうのと言及する気持ちなど皆無である。別に何の感傷もなく、ただやり過ごせばいいだけなのだろう。

 そう思いつつもふと頭を過るのは、前年のクリスマス・イブのことだった。
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