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曖昧なままに
第2章 単なる男女
 その日は会社で遅くまで残業をした後、帰りに晩飯を求めて24時間営業のスーパーに立ち寄っている。そして惣菜コーナーの前で、俺は不意にあるものに目を止めた。

 そこに並んでいたのは、売れ残ったローストチキン。そのパックには『半額』とのシールが張られる。

「……」

 それを目にして、暫し絶句する俺。何とも言いようのない、虚しさに苛まれていたのだ。

 クリスマス・イブ――多くの人々にとって、家族や恋人と過ごす特別で華やいだ、その夜に――。

 そこから取り残されている――俺と売れ残ったローストチキン。その邂逅は、俺の中に惨めな想いだけを残していた。


 そんなことも手伝って。この時期は自分の孤独を際立たせる点に於いて、やはり嫌いだと正直に告白しよう。そして付け加えるのなら、俺は何より寒々しい冬が嫌いだ。

 せっかく出会えた愛美とも、その孤独を解消できる関係とは程遠い。今年も静かに、この季節をやり過ごそう。そんな風に感じていた矢先だった。

 突如として、俺の携帯が一通のメールを受信する。


『もしよろしければ、明後日お会いできませんか?』


「……!」

 そのメールは愛美からのもの。それを目にして、俺の心が俄かにざわめいた。その訳は『明後日』が、クリスマス・イブであるからに他ならない。

 実を言えば数日前のこと。俺の方から誘ってみようかと考えもした。しかし結局それをしなかったのは、イブという響きに気後れしたからなのだろう。

 何のことはない。どう言い訳しようとも、俺が十分にクリスマスというイベントを意識していた証拠だ。

 だからこそ、俺は愛美を誘えない。わざわざその日を選び彼女と会うのは、自分の気持ちが透けて見えるようで嫌だった。

 どうせ誘っても無駄。彼女も了解はしないだろう。勝手にそんな言い訳をし、自己完結を果たす。どの道、俺たちは恋人同士でもなく、そこに至ろうとすらしていないのだ。

 その状況を一転する如き、愛美からのメール。とりあえずオッケーの趣旨をメールで伝えると、俺はアレコレと考えを巡らせていた。

 店は何処にする? プレゼントは用意するのか? 食事の後は、どうすればいい?

 その前に――愛美は一体、どういうつもりで? 

 色めき立ち、そんなことを一通り思慮した後。

「フフ……」

 と俺は思わず、自嘲気味に笑った。
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