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曖昧なままに
第12章 波乱の再会
「待って――!」

 呼び止める声も訊かずに。自らの仕事すら放棄して、愛美はその場を離れて行く。

「くっ!」

 俺も慌て――その背中を追いかけ走った。

 何処に向かうというのか。否、何処でもいいのだろう。とにかく俺から逃れんとして、愛美は店の外へと飛び出した。

 深夜の暗がりの中。息を切らせながら、必死に走ると――

「ま――待って、くれ!」

「!」

 俺は腕を掴み取って、ようやく愛美を止める。建物を回り込むように走り、二人は店の裏側へと辿り着いていた。

 ハア……ハア……。

 そのまま動きを止め。暫くの間、俺たちは互いの息遣いを耳にしている。

 それから――まだ背を向けている彼女に、俺は静かに訊ねた。

「俺の顔……もう見たくない?」

 愛美は言葉にしなかったが、ふるふると頭を振ってそれを否定。それを見て俺は少し安堵し、掴んでいた愛美の腕を放す。

「じゃあ、こっちを向いて――顔を見せてくれないか」

「駄目……私、もう……会ってはいけない……巻き込んではいけないって……そう決めたから」

 巻き込んではいけない――俺はその言葉に、初めて愛美の本心を垣間見た気がした。だからこそ、この機を逃してはならない。

 俺はそう感じて、もう一歩深く踏み込もうとする。

「俺――君のお母さんに、会って来たよ」

「え――?」

 首をゆっくりと回し、愛美は驚いた顔で俺を見た。

「何かをできるなんて、自惚れてはいない。でも、愛美が俺に何を求めていたのか――それを知りたいと思うんだ」

「あ……あ……」

「仕事が終わるまで待っている。だから、俺と話をしないか」

 その刹那――愛美の瞳から流れ出す、涙。そして、彼女は呟く。

「シバ……ザキ……さん」

「――!?」

 その名を口にした――。それが何かのスイッチで、あったのであろうか?


 うわああああっ――!


 怒号の如きその叫びは、確かに愛美が発していたものだった。

 そして、その身体を一つの塊とするかのように、俺に向かって激しく飛び込む。その勢いに押され、ドンと壁に俺の背中が押しつけられた。

「ま、愛美――!?」

 豹変した愛美は、俺の衣服を剥ぎ取らんとしている。俺は焦り、何とかその動きを制そうとするが――。

 ゴン――!

 暴れる愛美の頭が、俺の顎を強烈に跳ね上げていた――。
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