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曖昧なままに
第2章 単なる男女
 そもそも愛美は『クリスマスを一緒に過ごそう』と、言っている訳ではない。

 ある意味では、俗世間と一線を画している愛美のことだ。もしかしたら当日がイブであることさえ、意識の外なのかもしれない。

 だったら別に、何時もと何も変わりはしないのだろう。

 そう感じた俺は、変に構えるのを控るよう自分に言い聞かせた。妙に浮ついた気分は、それに裏切られた時の落胆を招く。そんなこと今までの人生に於いて、嫌というくらい味わっている筈だ。

「クリスマス? くだらない……」

 ゴロリとベッドに寝転びながら、俺は何気にそう呟く。

 その言葉とは裏腹。それでも何処かに高鳴るものを禁じ得ず、俺はその年のイブを迎えるのであった。

    ※    ※

 待ち合わせ場所である駅前に、時間前に着いた俺――。

「どうも……」

 そこに少し遅れて駆け付けた愛美。

「あ……」

 それでもと考え、急遽ながらイタリアンのレストランを予約したのだが。どうやらその判断は正解であったらしい。洒落た高級店ではないが、少なくとも通常通り食べ放題の焼き肉店やラーメン屋にしなかっただけ幾分はましだ。

 そう思ったのは、この日の愛美の姿を一目見た時である。俺のぼーっとした視線に気づくと、彼女は少し恥ずかしそうな顔を見せ――

「一応、イブなので……あの、変でしょうか?」

 スカートの裾をちょっと摘みながら、戸惑いの声で俺にそう訊ねた。

 いつもの愛美の服装は地味なものが多い。下は大抵ジーンズやスラックスで、まずスカート姿で現れることはなかった。そして履物はぺったりとしたスニーカー。

 服装にに頓着のない俺でさえ、もう少しオシャレすればいいのに、とそう思ってしまうくらいだった。

 なのにこの日は、一目見た瞬間から既に違っている。スカート姿も然ることながら、全体的に女性らしさを際立たせた服装だ。派手さはないものの、彼女なりに精一杯の努力が表れていた。

「いや……良く似合ってる、と思う」

 何故か俺の方が照れながら、何とか言葉を絞り出した時。

「よかった。普段着なれてないから、ちょっと不安で……だから例えお世辞でも、そう言ってもらえるのは嬉しいですよ」
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