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曖昧なままに
第14章 月並みな俺
 その週が明けた月曜日――。

 出社した俺はタイムカードを押し、何時ものように職場へと向かう。その際、工場の建屋の角を曲がる処で、奈央とバッタリ顔を合わせていた。

「お……おはよう」

 胸をドキッとさせながら、何とか挨拶を口から絞り出す俺。

 それに対し彼女の反応は――。

「……」

 フイ――、ツカ、ツカ、ツカ――。顔を叛けて俺を黙殺すると、その場から足早に立ち去って行く。

 それは当然の振る舞いであった。奈央してしまったことを振り返れば、そう思う他はない。そうと知りつつも、ズキリと痛む心。

 だがそれすらも、彼女の痛みの比ではなかった。


 この一週間というもの。それからも奈央は、俺と会社で顔を合わせる度に、全く同様の対応に終始している。もちろん、メールや電話をしてくることはなかった。

 全ては――俺の土曜日の行動如何に委ねられている。すなわち、そういうことだった。

 その間の俺は、激しい悩みの渦中に……。それでも奈央に全てを語ったことを、後悔している訳ではなかった。

 恐らくそれをしなければ、心から笑って奈央と手を携えることができず。

 それをせぬまま愛美に対峙しても、その『覚悟』の程度を見透かされるだけだろう。

 わかっているのは、どちらか一方を諦めなければならない、ということ。だからこそ突き詰めれば突き詰める程に、答えは出ているように思えた。

 俺は既に、気がついていることがある。愛美と俺との邂逅は、間違いなく刹那のものとなろう。仮に俺が彼女の心を解放できたとしても、その先に未来を見ることはできなかった。

 愛美が『柴崎の死』を乗り越える為の媒介。俺の果たせる役割は、恐らくそれだけである。否応なく柴崎という人物を思い起こさせてしまう俺が、彼女と共に生きて行くなんて……。

 それが望ましいことだとは、どうしても思えなかった。

 つまり一方には、初めから別れしかない。だとしたら、もう考えること自体が無意味。

 だのに一向に、俺の迷いは消えて無くなりはしない。


 そんな最中ついに――運命の一日は、訪れていた。
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