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曖昧なままに
第2章 単なる男女
「では、有り難く頂戴いたします」

 少しおどけて、それを受け取ると――

「ふふ、どういたしまして」

 愛美も柔らから笑顔を浮かべた。

 それから彼女は、やや改まってこんなことを訊ねてくる。

「クリスマスって、好きですか?」

「え? いや別に――というか、俺みたいな男にしてみれば、普段より余計に独り身が染みる日だからね……」

「ホント、そうですよね。私も同感です。とても迷惑なイベントだと、感じてしまって……。だから、今日こうして付き合っていただいて、ちょっと嬉しかったんですよ」

「それは、どういう意味で?」

「だって……傍から見れば、私たちもイブを楽しむ恋人同士ですよね?」

「ああ、そう……なのかな?」

 恋人同士との言葉に気後れする俺に、愛美はぽつりとこう呟くのだった。

「そうすれば一瞬だけ……私もその中に、溶け込むことができるもの……」

「……」

 その時の何処か虚ろな表情とその言葉が、また二人の間に壁を築いていたように俺は感じる。恐らくは寂しさを紛らわせる為に……。この夜、愛美が俺を誘ったのはそんな理由なのだ。

 結局、俺たちの行く末は、何処まで歩いても交わらない平行線なのだろうか。そう思い落胆した俺の心が、大きく揺さぶられるのはすぐ後のことだった――。


「ご馳走さまです」

「こちらこそ、プレゼントありがとう」

 店を出た俺たちは、そんな会話をかわし車に乗り込んだ。

「じゃあ、送って行くね」

 先ほどのやり取りで、高揚した気分を冷やされていた俺。この夜を早くも終わりへと向かわせるように、そう言って車を発車させた。

 俺の臆病が頭をもたげたと言えば、それだけの話。しかし愛美が壁を築いている以上、それも仕方がないことだと思える。やはり俺では、彼女の気持ちを変えることは無理なのか。

「……」

 愛美は何故か黙ったまま頬杖をつき、窓から景色を眺めている。珍しく口にしたカクテルにより、その頬をほんのりと朱色に染めていた。
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