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曖昧なままに
第3章 白くない聖夜
 急に無抵抗となり、愛美の全身は脱力している。俺は傍らで、もう一度その魅力的な肢体を隅々まで眺めた。

 愛美から恥辱に満ちた表情が消え、何処か虚ろに天井を見上げる。

 彼女は俺を受け入れようとしているのだ。そう考えた時、急激に高まるものを覚えた。

 妻と別れてからは、この様な男女の触れ合いに無縁だった俺。久々となるその感覚が、心の余裕を奪う。飢えた何かを補う如く、荒々しくその白い身体に飛びついた。

 胸の間に顔を埋めて、強くふくらみを揉みしだく。そして突起した乳首を口に含むと、それに夢中で吸いつく、が――。

「……」

 打って変わって、無反応の愛美。そうと知った俺は、一層に激しく愛撫を施す。声を押し殺せなくしてやろう、とそんな気持ちが芽生えていた。

 俺は全身を弄りつつ、舌を胸から首筋、脇の辺りまで這わせてゆく。

「……」

 それでも声を漏らさない愛美。その反応に若干の焦りを覚え、俺はベッドを南下。そして愛美を足先から眺めると、まだ秘めた部分を隠す最後の布に両手をかけた。

 それを一息に脱がそうとした、その瞬間――。

「――したいですか?」

 と、愛美がポツリと呟く。

「え……?」

「私とセックスが――したいですか?」

 改めてそう問う愛美は、何処か冷めた口調であった。

 俺はそれを不思議に感じながらも、率直にこう答える。

「うん。したい」

 しかし、愛美の追い打ちのような次の問いが、俺を困惑へと陥れた。

「何故――ですか?」

「……」

 何を今更――と、それが正直な気持ちである。君が望んだから俺は、と思わずそんなことが口をつきそうになっていた。

 だがそれは、剥き出しとなった男の部分によるもの。俺は衝動をグッと抑え、彼女の意図を考えてみる。

 好きだから――なんて答えは、恐らく求めていないだろう。それにそれを言えるほど、俺も状況を見失ってはいなかった。

 今夜の愛美の態度は何処か衝動的であり、ベッドの上で裸を晒しあいながらも、二人は恋人同士とは程遠い。

 答えあぐねた末に――

「嫌なの?」

 俺は冷ややかに、そう聞き返した。その直後、そんな己に嫌悪が襲う。

 そして暫くの沈黙の後――。

「そうじゃなくて……ごめんなさい。私……わからなくなって」

 愛美の震える涙声が、その様に訴えていた。
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