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曖昧なままに
第4章 飲み潰れた後
 年内最後となる仕事を終えると、俺は自分のデスクに座り一息つく。

 そして何気なく仕事着のポケットを弄り、携帯を取り出しそれを開いた。どうでもいい話だが、俺は未だにガラケー。今の携帯も愛用してから、既に六年目に突入している。

「……」

 その時、ふと愛美にメールしようかと考えていた。だが、どうメールしたらいいのか悩む。そうしてる内に側に近づいて来た上司に、こう声をかけられた。

「中崎、グズグズするな。行くぞ」

「何処に、ですか?」

 俺はきょとんとして、そう訊ねる。

「馬鹿、寝惚けんな。この後、忘年会だろ」

「あ……そうか」

 仕事納めのこの日は、会社の忘年会が行われるようだ。週初めに聞いてはいたが、すっかり忘れていた。

「ああ……面倒だな」

 俺は上司に聴こえないよう小声でそう呟くと、手にしていた携帯を閉じやれやれと仕方なくデスクを立ち上がる。

    ※    ※

 会社にほど近いホテルに設けられた宴席で、この年の忘年会は執り行われていた。

 小さな支社ではあっても、全従業員が集まるとそれなりの人数になる。宴会場が見慣れた顔の社員で、埋め尽くされていた。酒も進むと、随分と騒がしさを増している。

 俺はこの手の席が苦手だ。別に酒が飲めない訳ではない。単純に会社の付き合いが嫌いなのだ。最も人付き合い自体、そう得意とは言えまいが。

 少し言い訳をするなら、同世代の社員がほとんどいない。俺の入社した年は、景気のどん底。同期入社も数名はいたが、転職して皆退社している。だから飲み会ではもっぱら、五十前後のオッサンのご機嫌を窺うことに終始。

 それで、楽しい筈もなかった。

 近年では二十代の若手もチラホラ見かけるが、彼らからすれば俺もオッサンの部類。どの道、話の合う相手ではない。

 そんな感じで、一人グラスを傾けていた俺。その時ふと、斜め向かいに座る人物と視線が合う。

 ん、こんな娘いたか?

 そこに居たのは、見覚えのない若い女性だ。

「あ、どうぞ」

 目が合ったついでだろう。彼女は俺に酒を勧める。ビールをグラスに注がれながら、俺は素直にこう訊ねた。

「ごめん、あまり見かけないけど」

「あ、そうですよね。私、最近入社したばかりなんで」

「そうなの。まあ、よろしく」

「こちらこそ。私、西河奈央(にしかわなお)っていいます」
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